秩父の工務店
秩父・木の家専門店夫婦で営むJIROKEN工務店土屋賢次郎です。
先日 いつものように息子とバッティングセンターに向かった。
彼は少年野球にすっかり夢中で、目指すは甲子園。
「お父さん、早く!」
と言いながら、バットを抱えて走り出す姿に、僕もつい微笑んでしまう。
そんな日常に、ちょっとした非日常が待っていた。
息子が打席に立ち、ふと隣を見た瞬間――息子の声が弾んだ。
「お父さん、あれ!松井秀喜じゃない!?」
そこには、まさに松井秀喜にそっくりな男が立っていた。
「いや、まさか…松井さんがこんなところに?」
と半信半疑の僕をよそに、息子の目はその“偽松井”に完全に釘付けだ。
息子:「ねえ、お父さん、あの人本当に松井さんかな?すごい!」
私:「うーん…どうだろうな。ちょっと様子を見てみるか?」
息子:「絶対そうだよ!だってあの背中、松井さんみたいだもん!」
そう言いながら息子は興奮気味に偽松井を見つめている。
しかし、その期待も束の間。
偽松井のスイングが始まった。
ボールは思うように飛ばず、あっちこっちに散らばっていく。
私:「…あれ?なんか違うな…」
息子:「う、うん…ちょっと、思ってたより…下手?」
二人で顔を見合わせ、少し笑いがこみ上げてきた。
しかし、その“下手”さにもかかわらず、偽松井は真剣に一球一球を打ち続けている。
私:「でもさ、見てみろよ。あの人、全然諦めてないだろ?」
息子:「…うん、なんかすごいね。全然へこたれない感じ。」
それからしばらく、僕たちはその偽松井の一挙一動に目を奪われていた。
息子は少しずつ、その“下手”なスイングにも関わらず、何か大切なことを感じ取っていたようだった。
バッティングを終え、帰ろうとするとき、なんとその“偽松井”が、息子に向かって声をかけてくれた。
「がんばってね!」
その瞬間、息子の顔がパッと明るくなった。
息子:「お父さん…今の、聞いた?がんばってねって!」
私:「ああ、聞いたよ。偽物かもしれないけど、気持ちは本物だったな。」
息子:「…うん。なんか、すごく嬉しい。」
息子はしばらく黙っていたが、少し歩いたところで突然振り返って言った。
息子:「お父さん、僕、もっとがんばる。絶対甲子園に行くんだ。」
その言葉には、どこかいつもとは違う力強さがあった。
偽松井のスイングは下手だったけれど、その一言が息子の心に火を灯した。
まさに、偽物だけど本物のエールだった。
私:「よし、じゃあ俺も本気で応援しないとな!」
息子:「うん!でもさ、また来たらあの人に会えるかな?」
私:「それはどうだろうな。次は本物の松井さんが来るかもしれないぞ?」
息子:「それでも…今日の人、すごくかっこよかった!」
息子の中で何かが変わった瞬間を、僕は隣で見守っていた。
偽物でも、本物以上の感動を与えてくれることがあるんだなと、父も胸がじんわりと温かくなった。
僕たちは、もう一度そのバッティングセンターに戻る日を心待ちにしていた。
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