カナダの寒さとステーキのにおい
- JIROKEN

- 5 日前
- 読了時間: 2分

ログビルダーになりたい。
それだけで、日本を飛び出した。
行き先はカナダ。手持ち金は70万円。
今思えば、無謀もいいところだ。
当然、すぐに底をついた。
言葉もわからない。知り合いもいない。
「俺、何やってるんだろう」
そんな夜を、何度も過ごした。
仕事にありつけたのは、本当に偶然だった。
友人が新聞の片隅に見つけた、小さな求人募集。
ダメ元で電話をした。
すると、「一度、会ってみよう」そう言ってくれた人がいた。
今でも、はっきり覚えている。
あれは、人生で一番ありがたかった「会おう」だった。
そこからは、丸太との毎日。
カナダの冬は容赦がない。
朝は真っ暗で、息が白い。
冷たい雨が、体の芯まで染みる。
丸太は重く、まったく思い通りにならない。
叩いても、削っても、簡単には言うことを聞いてくれない。
体もきつかった。
でも、正直に言えば、
一番きつかったのは気持ちだった。
もう限界だな、と思った日。
社長が、「飯、いくぞ」そう言ってくれた。
連れて行ってくれたのは、ステーキハウスだった。
ドアを開けた瞬間、肉の焼ける匂い。あたたかい空気。
店内のざわめき。
その全部が、胸にしみた。
ナイフを入れると、肉汁がじわっと広がる。
「いつか、自分の金でこの店に来てやる」
心の中で、そう誓った。
生活は、本当にギリギリだった。
それでも、不思議と逃げたいとは思わなかった。
拾ってもらった。教えてもらった。
だから、仕事で返したかった。
恩返しは、口じゃなく、
手と体でやるものだと思っていた。
日本に帰って、自分の家を建てるとき。
迷いはなかった。
あの社長に、胸を張れる家をつくりたい。
そう思って建てたのが、今住んでいるこのログハウスだ。
図面を引きながら、丸太を組みながら、何度もカナダの現場を思い出した。
この家には、技術だけじゃない。
悔しさも、寒さも、あのステーキの匂いも、全部、詰まっている。
だからこの家は、ただの「自宅」じゃない。
私の原点であり、覚悟の証。
一生、大切に住み続けると決めている家だ。
あのとき、
何も知らない自分を拾ってくれた社長がいたから、今の自分がいる。
そして、この家があるから、
息子に「大切にすること」を背中で伝えられている。
この家は、過去と未来をつなぐ場所。
そう思いながら、今日も木に触れている。



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